医療ジャーナリスト和田努の「医療・健康・福祉」を考えるコンシューマーヘルス
 
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21世紀がん治療の新戦略(1)
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 日本人の年間死亡者は百万人を突破した。そのうち三人に一人はがんで死亡する。毎年、三十万人以上の人が、がんで命を奪われている。考えてみれば、二十世紀最大の積み残しのテーマはがん≠ナはなかっただろうか。多くの人びとは、20世紀末までにがんは解決できると信じていた。

 アポロ11号の宇宙飛行士が月面に足跡を印したのは1969年。いきなりアポロ計画とは…と訝る向きもあるかもしれないが、大いに関係がある。ニクソン大統領がアポロ計画とひきかえに打ち出したのが「がん征服戦争」だった。「がん関連法案」(ナショナル・キャンサー法)にはこう書かれていた。

 「建国二百年祭、すなわち一九七六年までに、全米レベルでの征服が達成されるべきものとする」と。「核開発や月面到着で見せたあの実力を結集しよう」とニクソンは呼びかけた。

 威勢のいい政策には致命的な誤りがあったと思う。月面に人間を送り届けたのは工学の勝利である。同じテクノロジーでがん細胞を叩く、主に抗がん剤を開発しようとしたところに、アメリカの科学信仰があったのではないか。膨大な予算を投じたにもかかわらず画期的な抗がん剤も治療法も生まれることはなかった。がん征服、がん戦争という言葉にみられるように、がんを敵と見立てるような発想がそもそも間違いだったのだ。がんはウィルスや細菌のように外敵ではない。もともと身内である正常細胞が遺伝子レベルの異常でがん化するのである。

 アメリカは苦い失敗を踏まえて、心とがんの関係をみる精神神経免疫療法、免疫療法、代替医療の再評価などに力を入れるようになった。アメリカ国立衛生研究所(NのIH)のなかに代替医療局を開局したのもその表れといえる。

 とりわけ力を入れたのはがんの予防だった。禁煙運動もそのひとつ、特筆すべき大きな成果をあげたのが、前立腺がんのキャンペーン。最近では「前立腺がんを知ろう。一年に一回は定期検診を!」というスローガンの郵便切手を全米で発売した。定期検診をして、早期発見に威力を発揮しているのがPSA。PSAは1975年にアメリカのウォング博士らによって開発された。当時はあまり注目されなかったが、改良が加えられ、精度の高い前立腺の検査法として、80年代後半から爆発的に普及した。


 PSAは前立腺の細胞でつくられる蛋白分解酵素の一種、前立腺になんらかの異常があるとPSAは血液中に漏れ出る。血液中のPSAを測定することによって前立腺の異常を発見することができる。
 PSAが実用化する十年前までは前立腺がんは、ほとんど進行がんで発見され、日本でもPSAのおかげで早期発見が可能になり、手術で完治する人が この十年で十倍になった。

 中高年の男性は、ぜひPSAの検査を受けてほしいものだ。1〜2ccの採血によって測定できる簡単な検査だ。会社の定期検診の項目に入れているところもあるが、日本ではまだまだ普及していない。

 アメリカの男性の多くの生命を奪う前立腺がんも、90年代になって死亡率が下降線を描きはじめてきた。それにひきかえ日本の前立腺がんは罹患率、死亡率ともに急増している。70年代半ばから増えはじめ、この四半世紀で十倍にはね上がっている。さらに2010年代には現在の三倍に増えるという予測もある。 

 前立腺がんばかりでなくアメリカは、がんが減りはじめている。国を挙げての、がん予防キャンペーン『ヘルシー・ピープル2000』が効を奏してきたからである。予防、早期発見の大切さを再認識したい。

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