医療ジャーナリスト和田努の「医療・健康・福祉」を考えるコンシューマーヘルス
 
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21世紀がん治療の新戦略(2)
 
 「がん休眠療法」という言葉をお聞きの方も多いと思う。休眠療法≠ヘ、治療法というよりは、新しい治療戦略というべきものである。

 1996年、金沢大学がん研究所の高橋豊助教授が、米国アンダーソンがん研究所時代、アメリカで最も権威のある癌研究の専門誌『JNCI』(アメリカ国立がん研究所発行)で発表した。がん治療の地動説≠ニ高く評価された。2000年、医学書院から発行された専門書の書名は、『Tumor Dormancy Terapy』である。dormanncyとは、「休眠」「休火山」という意味がある。

 高橋助教授の学説は、一口で言うと、がんを敵とみなし「がんを殺す」というのではなく、がんの増殖を止めて眠らせている期間、すなわち「休眠期間」を延ばし、がんと共存したらいいという発想である。である。専門書の表紙には、Musut we kill cancer?(がんは殺すべきなのか)と刷り込まれている。

 高橋氏は、がん治療のゴールを、「がんを殺したり、小さくすること」ではなくて、「がんを眠らせておとなしくする」ことであると、発想を転換したというわけだ。

 休眠療法とは具体的にはどんな方法をとるのだろうか。まず抗がん剤に対する意識を変えていくことだ。まず抗がん剤が認可される効果判定基準そのものに問題があるという。

 がんが消失し、その状態が四週間以上続く場合を著効=A半分になれば有効=A腫瘍がほとんど変わらないものは不変≠ニ呼ぶ。不変≠フ場合は抗がん剤として認可されない。抗がん時の判定は、「がんが縮小する」ということでのみ評価されるからである。
「縮小なくして延命なし」というのが、現在のがん治療現場の常識であり、憲法だという。しかし、がんが一時的に縮小しても延命につながらないことは、よく知られるところである。

 高橋氏はこう書いている。「手術に当てはめると感覚が一変する。つまり手術で癌の半分を切除するのは、癌がどんなに大きくても、どんなに進行していても、難しいことではない。しかし、こういった手術が延命につながると思う人がどれくらいいるだろうか。腫瘍が縮小したという事実は、化学療法・手術両者で差がないのである。根治手術とは、おそらく少なくとも99パーセントの癌は切除していると思われる。それでも一年以内に再発する症例はまれではないのである」と。 

 むしろ不変≠フ状態に注目し、この状態を長引かせることが延命効果があることを高橋氏は証明したのだ。抗がん剤投与も、休眠の状態を維持するために抗がん剤を低容量投与すれば副作用もほとんどなくなる。「これまではがんを縮小させようと一度にドカーンと投与しました。副作用も強いし、身体に与えるダメージも大きい。休眠療法は副作用が出ない量を調整しながら投与していきます」

 膵臓がんと診断され、肝転移もみられた患者は、複数の病院から「これ以上、治療はできない」といわれ、高橋医師のもとを訪れた。あと三ヵ月の命といわれたこの患者は休眠療法を受け、すでに一年以上、自分の足で外来に通い、健康な人と同じような生活を送っている。

 限りなく長く、がんと共生して、がんを持ちながら天寿を全うする「天寿がん」という考え方もでてきた。

 殲滅から共生へ―21世紀のがん医療のキーワードである。

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