医療ジャーナリスト和田努の「医療・健康・福祉」を考えるコンシューマーヘルス
 
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欧米のがん戦略 と日本
 
先に厚生労働省から悪性腫瘍の死亡率の推移が発表された。心疾患、脳血管疾患の死亡率はこの20〜30年で大幅に下がっているのに、がんだけは高値安定=B胃がん、子宮がんの死亡率が下がってきているのでなんとか横ばい状態を維持しているのだが、肺がん、大腸がんなどの死亡率は大幅に上昇している。1950年から99年までの男性の死亡率(対人口10万の死亡者数)のはね上がり方をみると不気味である。
 ・肺がん 3.6人→47人
 ・大腸がん 8.5人→25.1人
 ・前立せんがん0.5人→8.5人

 肺がんが13倍、前立せんがんは17倍、大腸がんは3倍。大腸がんは最近急勾配で増えている。日本は欧米に比べてがん大国≠ネのである。

 がんの制圧は世界各国の悲願だ。多くの命を奪い、巨額の医療費を費やす。アメリカは「ヘルシーピープル」という国家プロジェクトを展開、九〇年代にがんの死亡率、罹患率を建国以来初めて減少させることに成功した。がんの死亡率、喫煙率などの目標値を細かく設定してアクションプランを示し、実行に移した。アメリカの成功の要因を、東北大学大学院の坪野吉孝講師(公衆衛生学)は、次のように分析する。

  「アメリカの優れたところは健康政策の分野で明確な数値目標を設定したことです。最近日本でも、インフレターゲットの設定など、政策に数値目標を導入することの重要性が議論されています。この手法をアメリカはいち早く実施したわけです」

 アメリカの成功を他国も見逃さない。 英国をはじめ、EU各国などは、数値目標を策定してがんに取り組んでいる。

 英国は健康政策「アワー・ヘルシアー・ネーション」(より健康な私たちの国)を発表。2010年までにがんの死亡率を五分の一に下げるという目標を示した。がんによる死亡者を10万人減少させるという目標値を掲げた。「喫煙はがんの原因である」というスローガンを掲げ、未成年の喫煙率を現状の13パーセントから9パーセントに、成人の喫煙率を23パーセントから15パーセントに下げるという目標値を示している。

 ブレア首相は内閣直属の「国家がん担当長官」というポストを創設。新聞に「がん担当の専制君主」と書かれるほど大きな権限をもたせた。

 日本もアメリカに追従している。「健康日本21」がそれである。だが、うわべだけ真似をして肝心の魂が入っていない。がん対策に関する限り、がんをどれくらい減らそうとしているのか、目標値が示されていないのだ。最大の危険因子である喫煙に関しては「喫煙率の減少に努力する」と書かれているだけだ。数字と言えば、中学、高校生の喫煙率を「0パーセント」にするという。できの悪い子が、いきなり「百点満点を取りたい」と言っているようなもので、これは数値目標と言うようなものではない。

 日本の未成年、若い女性の喫煙率の上昇ぶりはすさまじい。高校三年男子55.6パーセント 、女子38.5パーセントの喫煙率(1996年度調査)。20代女性の常習喫煙率は80年代は、10パーセント強だったが、最近は20パーセントを超える。 少女、若い女性の喫煙は、がんばかりでなく、胎児障害、未熟児出産など、母体の影響を考えると、日本人はもっと深刻に受け止めるべきではないか。

 WHO(世界保健機関)は警告する。「日本は将来長寿大国という保証はない」と。  

 悲願だった肺がんの死亡率を下げることに成功したアメリカは「今後急速に死亡率は下降する」と専門家は予測する。それにひきかえ、日本の肺がんは急激に増えていくことは間違いない。日本の健康政策は欧米にかなり遅れをとっている。

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