医療ジャーナリスト和田努の「医療・健康・福祉」を考えるコンシューマーヘルス
 
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旅行医学≠ご存知ですか?
 
 「旅行医学」という言葉を聞いた人はそれほどに多くないだろう。新しい医学分野で、まだ十年位の歴史しかないのだから無理もない。欧米の医師を中心に「旅行」に関連する傷病を扱う応用医学分野として生まれた。すでに国際旅行医学会も設立され、多くの医師、医学者が、この分野で活動をしている。

 日本では昨年7月1日、「日本旅行医学会」(山田兼雄理事長)が誕生。この3月10日、初めて、東京で日本旅行医学会が開かれた。私は学会を傍聴してみて「旅行医学」という分野がきわめて広い守備範囲を持ち、重要な意味を持っていることを再認識させられた。

 一年に1600万人の日本人がが海外に出かける時代だ。一年に海外で少なくとも、500人が命を落としている。死因の多くは脳卒中、心筋梗塞、事故だ。それらの傷病の多くは旅行者自身、添乗員などが、しっかりした医学知識を持ち、危機管理ができていれば防ぐことができただろうと言われる。

 日本旅行医学会専務理事の篠塚規医師は、米国ピッツバーグ大学医学部などで救急医学を修めた、わが国の旅行医学の第一人者のひとりだが、旅行業界関係者の危機管理の遅れを、こんなエピソードで語っている。

  「エコノミークラス症候群は、飛行機内の乾燥が引き起こす脱水症状が原因のひとつです。簡単な予防法は、よく水分をとることです。こまめにトイレにいくことも足の運動になり、効果的予防法なんです。ところが、ついこの前までは添乗員の中には成田空港で、まったく逆のアドバイスをしていました。狭い機内で頻繁にトイレに発つのは迷惑になりますから、水分はなるべく控えるようにしてくださいと」

 篠塚医師が医学専門誌『メビオ』に書かれている知見を簡単に紹介させていただくと、飛行機の中の環境は苛酷そのもの。機内の気圧は富士山の五合目とほぼ同じ。酸素の濃度も20パーセントは低下している。乾燥度はサワラ砂漠より乾いている。飛行機の中の旅行医学は絶対に必要だ、と篠塚医師は力説する。

 旅行者もあまりに無防備である。高山病の知識も必要だ。最近はスイスやヒマラヤのトレッキングをするというツアーもある。トレッキングはしなくても南米などいきなり高度三千メートル級の高地にある空港に降りることも珍しいことではない。ここでも高山病対策は必要である。

 最近の海外旅行の特徴のひとつとして、会社をリタイアした高齢者たちが大量の旅行人口を成していることだろう。糖尿病や高血圧症、心臓病を持っている人も多い。中高年の旅先での生活習慣病の管理は旅行医学の最大のテーマかもしれない。

 海外の病院に行かなくてはならなくなった場合、病名、既往歴、薬の情報など、旅行用の英文の医療文書(ヘルス・パスポート)を用意しておくと立つ。

 エイズなど性感染症の問題、車椅子による旅行や人工透析を受けている人の旅行など、旅行医学の守備範囲は無限に広がるのである。

 世界観光機構(WTO)の予測では、世界の観光客は2010年には十億人、2020年に十六億人に達するという。考えてみれば、今日はバイオテロにも巻き込まれる時代だ。旅行医学は21世紀がもとめるグローバルで、かつ緊急な医学分野であるといえよう。 
 
【 日本旅行医学会事務局 URL:http://www.jstm.gr.jp/index.htm

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