医療ジャーナリスト和田努の「医療・健康・福祉」を考えるコンシューマーヘルス
 
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感染症の恐怖を忘れた現代人
 
 重症急性呼吸器症候群(SARS)、いわゆる新型肺炎が沈静化に向かっているのは朗報である。多くの犠牲者を出した悲劇に加えて地球規模で経済にもたらした影響も計り知れない。中国広東省南部のタヌキに似た獣、ハクビシンが持っていた新型コロナウィルスが原因といわれる。広東省ではハクビシンを食べる習慣があり、調理者や食べた人が感染。世界に広がったと考えられている。

 医療専門誌『ばんぶう』(日本医療企画刊)七月号は「ウィルスの逆襲」という特集で感染症の問題をとりあげている。この特集の中で病原性微生物に詳しい東京医科歯科大学の藤田紘一郎教授は語っている。「サーズはもっと早めに中国当局がもっと早めに手を打てば、風土病で終わっていたかもしれないが、隠したために感染被害が拡大してしまった。当然、世界のグローバル化がそこには関係しています」と。

 ジェット機など交通手段の発達した現代は、感染力のそれほど強くない感染症もあっという間に世界中に伝播してしまう。さらに問題なのは、現代人が感染症に対しての感覚が鈍磨しているのではないか、ということだ。中国の行政組織に問題もあるのだが、根底には感染症に対する感覚の甘さがあるように思えてならない。

 人類は感染症との死闘の歴史を刻んできた。細菌学の進歩、ワクチンの開発、ペニシリンはじめとする抗生剤の発明は、次々に感染症を解決していく。ご存知のように、1980年、WHOは天然痘を地球上から根絶したと勝利宣言をした。 この勝利宣言は、感染症を人類は完全に制圧したと思わせるような趣きがあった。しかし皮肉なことに、勝利宣言の翌年、CDC(米国立防疫センター)は、世界初のエイズ患者を認定した。その後、エボラ出血熱、狂牛病…と、新しい感染症が続出している。最近は成人のはしかが多く見られる。小児の麻疹は軽くて済むが、成人は重症化する。 はしか(麻疹)ワクチンは以前は義務接種≠セった。ところが、最近は任意=i勧奨)になっている。80年代から90年代前半に接種率は下がり、70パーセントを切ることもあった。感染症が克服されたというムードが影響を与えたのではないだろうか。

 最近、大学や高校で、はしかが集団感染するケースが相次いでいる。鹿児島大学では医学部の一年生を中心に約60人が感染。附属病院での臨床実習の一部を中止、自宅待機させた。患者に感染させる恐れがあるからだ。医師の卵が、はしかに集団感染するというのも皮肉な話である。若者の間で集団発生が相次いでいるのは、彼らが小児だったころ、ワクチンの接種率が下がったことと強い相関を示していると思う。アメリカのメディカルスクール(医学部)は予接種が済んでいないと入学させないという。日本は予防接種の対応はあまりに甘い。

 感染症はいささかも解決はしていない。21世紀は、新たなる感染症の時代を迎えたというべきである。

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