医療ジャーナリスト和田努の「医療・健康・福祉」を考えるコンシューマーヘルス
 
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心ある良医を育てたい
 
 東京慈恵会医科大学青戸病院で起きた前立腺がん腹腔鏡下手術の医療事故の詳細を知ると暗澹たる気持ちになる。腹腔鏡下の手術は、腹部に数箇所穴を開け、内視鏡を挿入してモニター画面を見ながら行う。

 厚生労働省は「高度先進医療」に指定、治療実績をもとに実施医療機関を認定している。東京慈恵医大は認定は受けておらず対象外だった。知識・経験のない医師が、最先端の手術をするなんて、あまりに無謀ではないか。聞けばマニュアルを見ながら手術をしたという。大量出血で患者を死に至らしめた。

 以前アメリカの科学アカデミーが医療事故に関する報告書を出したことがあある。タイトルは“To err is Human”(誤りは人の常)だった。人はどんなに注意深くことを運んでも誤りを犯すものである。だから細心の注意をしなくてはならないという意味合いである。しかし東京慈恵医大のケースは、エラー≠ナはない。未熟な運転者が高速道路を暴走するようなものである。医師たちが、技術を習得するために患者を練習台にして死に至らしめたのでる。許しがたい犯罪である。

 日本の医療事故の特徴は「医療知識の不足・技術の未熟性・独善性」と言われるが、この事件が、まさにその典型である。魂、モラルのない、そして知識・技術のお粗末な医師を大量生産しているのは、わが国の医学教育の欠陥である。医学部での教育の大切だが、卒後教育もそれにまして重要である。

 厚生労働省は、2004年度から研修医制度の改革に乗り出す。現行の制度は大きな欠陥を抱えていた。二年間の研修期間を設けたが、研修を受けるのは義務ではなく、努力目標であったこと。研修医が医術・知識を研鑚する人なのか、労働者なのか、きわめて曖昧だったこと。 そのあたりを踏まえて、大きな改正点は二つ。一つは研修医の処遇。研修医があるバイトをしなくても研修に専念できるように手当を保障しようというもの。二つ目は研修プログラム。最近は専門医志向が強い。その弊害を除くために、24ヶ月の研修期間に、内科六ヵ月、外科・救急部門六ヵ月、小児科、産婦人科、精神科など三ヶ月を目安にローテートする。各診療科をくまなく回ることによって、専門分化の弊害を防ぎ、患者を一人の人間として見るオールラウンドな診療能力を身につけさせようとする狙いである。「スーパーローテート方式」ともいう。

 アメリカは四年制の大学を卒業後、メディカルスクール(四年制)に入学する。一年生から白衣を着て[Student Doctor」として患者に向き合う。指導医のもとで、4年生まで内科、外科……あらゆる診療科をローテートする。卒業時に将来進むべき診療科を決め、自分が行きたい病院を複数志望し、病院側は採用したい新人医師を選考し、コンピュータによるマッチングを行う。病院就職後は、レジデントとして研鑚を積み重ねていく。徹底した臨床重視だ。

 遅すぎた改革だが、来年の研修医制度改革は、患者と向き合うことで、心ある良医を育てる第一歩であって欲しい。 研修医たちも国民の税金で育ててもらうという意識を忘れて欲しくない。

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