医療ジャーナリスト和田努の「医療・健康・福祉」を考えるコンシューマーヘルス
 
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生命倫理とバイオテクノロジー
 
 6月2日、東京・青山にある国連大学で、ラウンド会議が行われた。テーマは「生命倫理とバイオテクノロジー 今なにが問われているか」。

 ドイツ、フランスなどから科学者、法学者、生命倫理学者ら集まり、白熱した討論がが続けられた。今バイオテクノロジー革命は想像以上に進んでいる。ヒトのクロ−ン研究、幹細胞研究など、バイオテクノロジーの急速な発達は、現在の法体系によってコントロールできない状況になっている。

 ヒトゲノムは誰のものか?

 ヒトの幹細胞を使ってヒトの器官、すなわち「スペア部品」を作っても良いのか…?

 バイオテクノロジーの進歩は人類に大きな夢を与えてくれることも事実である。遺伝子治療で治療法のなかった難病が治るようになるかもしれない。老化のメカニズムが解明されて不老長寿を手に入れることが出来るかもしれない。映画『ジェラシックパーク』ではないが、絶滅寸前の生物を再生することは夢ではない。例えば、国際保護鳥に指定されている日本のトキを再生することはあながち非現実的な話ではない。

 しかしバイオテクノロジーの進歩を手放しで喜んでばかりいられない。あらゆる面から総合的に討議して、人類が技術の奴隷になることを阻止しなくてはならない。これが今回のラウンド会議のテーマである。

 生命倫理の第一人者、早稲田大学の木村利人教授は、日本文化の伝統から説きおこす。聖徳太子や江戸後期の思想家、『自然真営道』を著した安藤昌益のらを援用しながら、自然に逆らわないバイオテクノロジーを主張する。「和を以って貴し」とする日本文化の伝統は、自然を支配するのではなく、自然と調和し、尊ぶ文化であると言う。しかし太平洋戦争時には、毒ガス、細菌など生物化学兵器を開発、中国大陸で関東軍七三一部隊は、犯罪的な人体実験を繰り返した。

 「20世紀のテクノロジーは大量殺戮を行い、多くの人たちを不幸にした。21世紀のバイオテクノロジーは、加害者も被害者も作ってはなりません」と、木村教授は結んだ。

 フランス国家諮問倫理委員会のディディエ・シカール氏は、「バイオテクノロジーの研究開発に確固とした倫理の歯止めをかけないと科学帝国主義≠生み出すことになる」と警告した。

  「基礎研究はどんどんやってもいいが、応用研究は慎重に、という声は高いが、基礎研究と応用研究の距離は、想像以上に近い」という原子物理学者の意見もあった。バイオテクノロジーにばら色の夢を描く人は多い。しかし、いつ悪夢に暗転するか分らない。マンハッタン計画で多く科学者を動員して驚くべき速さで原子爆弾を作ることに成功した。広島に原爆が投下された時、悪夢を見た。原爆を造るようローズベルト大統領に勧める手紙に署名したアインシュタインは、罪悪感に苦しんだ。

 われわれは、ばら色の夢を結ぶ一方で、悪夢も想定しなくてはならないことをランド会議は語りかけていた。

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