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| 湘南へルスネットワーク |
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『脱病院化社会』『脱学校の社会』などの著作で有名な思想家イヴァン・イリイチが亡くなった。現代の思想界に与えた影響は計り知れないものがある。イリイチの著作のなかに『コンヴィヴィアリティのための道具』がある。コンヴィヴィアリティ(Conviviality)という英語はきわめて訳しづらい言葉である。英和辞典を引くと、「宴会気分」「陽気さ」というような訳語が出てくるが、どうもぴんとこない。この本の訳者・渡辺京二氏は、「自立共生」と訳しておられる。苦心の訳語といえる。「みんなでわいわい言いながら楽しむ」というようなニュアンスのようだ。
古瀬幸広・広瀬克哉著『インターネットが変える世界』(岩波新書)によると、パーソナルコンピュータを開発した人たちは「イリイチの『コンヴィヴィアリティのための道具』を読んで感銘し、それを実現するためにパーソナルコンピュータをつくった」という。
コンヴィヴィアリティ≠ニいう概念は「インターネットが実現しつつある新しい社会の理念を示す」(『インターネットが変える世界』より)というわけである。
いささか前置きが長くなったが、医療の世界でもパソコンはコンヴィヴィアリティのための道具になりつつある。医療の動きのなかで、私がもっとも注目しているのは「湘南ヘルスケアネットワーク21協議会」(大久保一郎会長)である。発起人のひとり武藤正樹氏は、国立長野病院の副院長(横浜市在住)。武藤氏が、国立横浜病院の外科医だった頃、一緒に働いた看護師らが、居酒屋でわいわい飲み会をかさねていた。去年の六月だった。宴会の席でネットワークづくりの話が出た。わいわいがやがや、まさにコンヴィヴィアルな雰囲気の中で決まってしまった。武藤氏が、「会長は大久保さんだ」と宣言。筑波大学社会医学系の大久保一郎教授が突如任命されたのである。
「酒の席だし、冗談から駒という感じ。次の日から始動していましたよ」(大久保さん)
七月二七日、神奈川県茅ヶ崎市コミュニティホールで創立記念シンポジウムを開催したのである。電光石火、その早業は見事である。職場はそれぞれ離れている。それをつなぐものはパソコンであった。メーリングリストを最大限に活用して議論をかさね、打ち合わせをした。コンヴィヴィアリティの道具だった。
120人の市民、医療福祉関係者、看護学生らが集まった。
さらに昨年12月8日、藤沢産業センターで第二回のシンポジウムを開いた。この時は、300人近い聴衆を集めた。基調講演、パネルディスカッション「湘南の地域ケアを考える〜安心して暮らし・老い・生を全うするために〜」という内容だった。このパネルディスカッションの題名が、この日のテーマを象徴的に物語っている。住民、看護師、医師らが、一堂に会して、自分たちの住む地域ケアどのように構築していくか、を熱っぽく語り合った。
「地域ケアは、各地域に密着したヘルスケアを医療者と住民が協働してつくりあげていくものです。中央から画一的に与えられるものではありません。市民による手作りのネットワークを広げて、湘南地域にあったヘルスケアをつくっていきたいと考えています」(大久保会長)
医療・福祉は地域性に根ざしたきわめてローカルなものであるそしてグローバルな性格も持つ。湘南地方が発信源になったになったヘルスネットワークづくりの動きは、広島県三原市、中伊豆地方、長野などなど、全国に波及する勢いである。コンヴィヴィアリティのための道具を使って、コンヴィヴィアルな仲間たちが、楽しみながら何かをできるところから実践する。 それはきわめて21世紀的な光景に思えるのである。
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