医療ジャーナリスト和田努の「医療・健康・福祉」を考えるコンシューマーヘルス
 
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新時代を迎えた心臓病治療
 
 9月8日から三日間、東京国際フォーラムで「第51回日本心臓病学会学術集会」が行われた。同学会は、会員一万人を擁する有力な学会である。今回は『心世紀創生』をメインテーマ掲げた。テーマにふさわしく、遺伝子導入による血管再生、ロボット手術、ES細胞、骨髄系幹細胞による心筋の創生など、心臓病治療の新しい時代を迎えたことをアピールした。

 二十世紀後半から今世紀にかけての分子生物学、バイオテクノロジーの発達は目をみはるばかりである。その一つが、今回の大きなテーマになった「再生医学」である。

 「トカゲの尻尾きり」という言葉があるが、トカゲは身を守るために自ら尻尾を切って逃げる。失った尻尾は、すぐに再生するのである。驚異的な再生能力である。ヒトにはそのような再生能力はないが、皮膚は再生するし、肝臓は再生能力の高い臓器として知られている。成人では肝臓の半分以上切り取っても、一、二か月もすれば元の大きさにまで再生する。このような強い再生力があるから、生体肝移植が可能なのだ。

 生物は基本的には再生能力を備えている。ところが、脳・脊髄などの中枢神経系の細胞は、再生能力がないというのが定説だった。

 2000年、ヒトの脳にも脳神経の幹細胞の存在が確認された。幹細胞とは、いろいろな組織や臓器の細胞に分化することのできるの細胞のことである。新しい細胞の元になる細胞である。脳にも神経の幹細胞があるということは、脳の再生医療の可能性も拓けたということである。パーキンソン氏病、アルツハイマー病なども治療可能な病気になるかもしれない。

 心筋(心臓の筋肉)もまた脳神経と同様に再生しないといわれていた。ところが数年前、胚性幹細胞(ES細胞)から拍動する心筋細胞を再生することが報告された。ES細胞とは、受精卵が胚胞磐と呼ばれる段階で内部細胞塊という特殊な細胞の集団ができる。この内部細胞塊を採取して培養した細胞である。ES細胞の特徴は、ありとあらゆる種類の細胞を産生する幹細胞≠ナあることだ。どんな細胞にも分化できるので「多能性を有している」と言われる。ヒトのES細胞もすでに培養に成功している。ヒトのES細胞を使って組織や臓器をつくることは夢ではない。

 慶応義塾大学医学部の福田恵一教授グループは骨髄間質細胞(骨髄の中の細胞群)の間葉系幹細胞から心筋をつくる研究をしている。今回の学術集会で、「近未来に臨床応用できるところまでこぎつけた」と発表。注目を集めた。

 日本心臓病学会学術集会を取材して医学の進歩、とりわけ再生医学の発展は、新しい細胞や組織を用いた 新しい治療法が確立されて、多くの人命が救われる時代がくるという予感もあるが、一方ではES細胞の扱い方など、生命倫理的な課題も少なくない。医学者は、絶えず、研究の経過を市民に開示して、市民もまたこれら医学の進展に関心を寄せるべきであろう。

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