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| スイスの製薬業界事情 |
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スイスの医療事情を取材する旅をした。
話は飛躍するが、明治四年(1871)岩倉具視団長率いる使節団が、横浜港を発ち、二年近くかけてアメリカ、ヨーロッパを視察。その公的な報告書が『特命全権大使米欧回覧実記』だ。「瑞士の記」と題してスイスの事情をかなりの紙数を割いて書き残している。〈瑞士国、英仏ニテハ「スイツルランド」ト云、独逸ニテハ「シワイツ」ト云〉と書き出し工業国となった事情を、山国で農業も十分にできないので、精密機器がが発達したという。
〈中にも瑞士の袂時計ハ、世界に名誉を専らニセルコト、皆人ノ知ル所ノ如シ〉年年ニ製作スル数ハ二十万個ニ下ルコトナシ〉
手づくりの超高級時計で有名なパテック フィリップ社は別格として、時計産業全体は斜陽という感じを否めない。緻密をきわめた精密機械の伝統は、医療機器、創意を生かした知識集約型の伝統は製薬業界に受け継がれているようだ。心臓のペースメーカーで実績のあるメドトロニック社を訪問して、そのことがよく分かる。
スイス北部の都市バーゼルに本社を置くノバルティス社という世界有数の製薬会社がある。2003年度の売上高は249億米ドル(約2兆6千億円)。1970年にチバとガイギーが合併しさらに96年にサンドと合併して、ノバルティスが誕生した。ノバルティスとは、ラテン語で「新しい技術」という意味だ。20万7千平方メートルの広大なキャンパスにオフィスや研究所が建ち並ぶ。同社の企業戦略は、研究開発に最も力を入れるということだ。昨年度の純利益50億ドルのうち研究開発費に38億ドルつぎ込んだ。しかもその30パーセントは外部の研究機関や大学に提供している。製薬部門の研究発担当役員のロメオ・パイオニ氏は語る。
「ノバルティス内部にも三千人の研究者を抱えていますが、外部の優秀な研究者、ベンチャーにを支援することでグローバルなリーダーとしてのとしての役割を果たすことができるし、新薬開発パイプラインを充実、保持できると信じています」
2008年を目標に七つのプロジェクトがブロックバスターになることを期待している。ブロックバスターとは、パイオニ氏によれば、10億ドル以上の売れ行きを上げる新薬のことだ。超ヒット製品を世に送ることで高利益を得て、研究費につぎ込むことができるという好循環をもたらすという。現に2001年の暮れに発売されたグリベック(慢性骨髄性白血病治療薬)は短期間で大型薬に成長。日本だけでも2003年度は170億円の売上を記録した。ほかに骨粗鬆症治療薬、血圧降下剤、移植免疫抑制剤など、ブロックバスター候補は多い。
いま世界の巨大企業はゲノム創薬にしのぎを削っている。ノバルティスはフロントランナーの位置にいる。2003年、ヒトゲノムの解読が完了。疾患をもつ人のゲノムを解析していけば疾患の原因を特定できる。一人ひとりに最も適した治療(テイラーメイド医療)も可能になる。新薬の開発の手法も大きく変わってくる。日本も必死に追走しているが、残念ながら先頭集団から遅れている。岩倉使節団が130年前、個性的なスイスから多く学んだように、日本の製薬業界も学ぶことは多い。
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