医療ジャーナリスト和田努の「医療・健康・福祉」を考えるコンシューマーヘルス
 
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エッセイ月刊「新医療」掲載分>進化するアドバンス・ディレクティブ

進化するアドバンス・ディレクティブ

 
 

 昨年の暮れ、2週間ばかりアメリカを取材旅行をした。サンフランシスコを基点として、主にベイエリアを取材する。アメリカを訪問していつも感じることだが、この国はあまりに広大で、州や地域によって、同じ国なのかな、と感じるくらい意識や考え方に隔たりがある。伝統的価値観を重んじる共和党の支持者の多い内陸部、民主党支持者の多いリベラリズムの東海岸、西海岸とは、かなり対照的である。
 
 私が今回訪れたサンフランシスコや郊外は、典型的なリベラルな地域といえよう。中間選挙で民主党が勝利した直後ということもあって、とても意気軒昂であったと思う。多くの人たちに話を聞いたが、彼ら、彼女らに共通することは、福祉、医療、環境に強い関心を抱いていることである。ファストフードを食べることは恥である、という感覚は相当のものもだ。若い主婦達の大きな関心事は「自宅出産」である。地域にある「バース・センター」に行ってみたが、この施設のトップはミッドワイフ(助産師)であった。近くの病院とタイアップしていて、異常がないかぎりは助産師によって赤ちゃんは誕生することになる。それも自宅で出産する。
 
 人生の閉じ方も自然≠志向する。
 
 クィンランのケースがきっかけになって、1976年9月、カルフォルニアの「自然死法」が制定された。自然死法は、1994年に改正された。並行して「持続的委任状法」が、制定された。この法律は本人が、植物状態や痴呆になって、自分の意思表示ができなくなったとき、患者が予め代理人を決めておき、自分に代わって意思表示をすることができることができるというもの。さらに2000年、「カリフォルニア・ヘルスケア決定法」が施行されることになった。この法律は、自然死法と代理人の指名する「持続的委任状法」とをあわせもつ法律といっていい。
 
 今では、延命治療を拒否する「自然死法宣言」と代理人を事前に指定する「持続的委任状」を書類にしておくことが普及している。これをアドバンス・ディレクティブ(事前指示)という。
 
 アドバンス・ディレクティブは、統一した書類形式があるわけではないが、カリフォルニア州では、カリフォルニア・ヘルスケア協会の発行しているフォームが多く使われている。

 「私が回復不可能な昏睡状態、あるいは長期にわたる植物状態に陥っている場合、死にゆく過程を引き延ばすだけの治療は差し控え、あるいは中止を、私の担当医に指示します」という宣言。代理意思決定者を委任する委任状の二本柱は必ず入れておく。さらにオプションとして「死亡時における臓器の贈与」という項目もある。
 
 アドバンス・ディレクティブは、全米での普及率は分からないが、西海岸サンフランシスコないしは郊外では、かなり普及しているように見える。なかでも大きな推進力は医師である。私の会った40代の婦人は、彼女が40歳になったとき、かかりつけの医師に勧められたという。高齢者は殆どアドバンス・ディレクティブを持っている。病院に入院するとき、病院側は、患者にアドバンス・ディレクティブがあるかどうか尋ね、その内容ををカルテに記入することが義務づけられたからである。
 
 人工呼吸器、胃婁などなど、医療テクノロジーの発明によって自然に死ねなくなったのが現代である。自分の人生の閉じ方を予めデザインしておかなくてはならないのではないだろうか。


 
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