医療ジャーナリスト和田努の「医療・健康・福祉」を考えるコンシューマーヘルス
 
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エッセイ月刊「新医療」掲載分>女性医師を活かさないと医療が破綻する

女性医師を活かさないと医療が破綻する

 
 

 テレビのコマーシャル(CM)は時代の鏡のように世相を反映する。
 
 84年の味噌のCM―公園の噴水のほとりで肩を寄せ合う男女。男性が女性にささやきかける。「○○チャン、僕に味噌汁を作ってくれない?ずーっと」。「みそ汁は愛です」という文字がスーパー・インポーズされる。男性の言葉がプロポーズであることが分かる。
 
 男女雇用機会均等法ができたのは86年。この2年前のCM。現時点でこのCMをみると、困ったCMだな、と眉をひそめたくなる。こんどは均等法後の87年の作品。栄養サプリメントのCMだ。
 
 ショルダーバッグを肩にかけたスーツ姿の女性が仕事から帰ってくる。バッグを肩から外しながら、「ねぇ、今日は外で食事をしよお?もう疲れちゃって、いまから作る元気がないの。お願い。明日からちゃんと作るから」。そこで「こんなときの疲れに、×××はよーく効きますよ」という男性のナレーションがかぶる。
 
 均等法施行後、女性が颯爽と勤めているところまではいいが、その後がいけない。夫は画面に登場していないが、先に帰宅しているのだから食事の支度をしてもいいと思うのだが、この夫は妻が食事を作るものと決めつけているし、CMの作り手も、夫が食事を作るなんて思いもよらないのだろう。
 
 二つのCMは、『メディアがつくるジェンダー〜日独の男女・家族像を読みとく』(村松泰子・ヒラリア・ゴスマン編 新曜社刊)から引用させていただいたものだが、こうして過去のCMを再現してみると、違和感というよりは、不快感すら感じる。いま、このようなCMを流したら、きびしいブーイングが上がるに違いない。世の中変わったのだ。
 
 とはいえ、現在でも女性は家の中で主婦をやり、男性は外で働くという性役割を押し付けることが終わったわけではない。シモーヌ・ド・ボーヴォワールが言うように「文化は本質的に男性的」であることは続いているのだ。
 
 話はいきなり飛ぶが、女性医師の問題を真剣に考えなくては、日本の医療は破綻することは目に見えている。OECD各国の女性医師の割合は、ポーランド、チェコ、フィンランドは、女性医師は50%を超え、フランス、ドイツなどヨーロッパ諸国も30%を超えている。日本はというと、24位、わずか14・3%。この数字をなんと見るか。
 
 わが国の医療現場は女性医師が決して働きやすい職場風土ではないことは確かだろう。いまでは29歳未満の若手医師に限れば、35・3%になっている。近い将来、3人に1人が女性医師で占められることになる。日本も先進国型になりつつあることは喜ばしいのだが、20代後半から40代前半にかけて、離職していく女性医師がなんと多いことか。妊娠・出産、育児のためである。女性特有のキャリア中断型のライフコースを「M字型就労パターン」というが、女性医師も同じようなライフコースをたどっている。 私の知りあいの女性医師の中に出産、育児のために医師を辞め、専業主婦になっている人がいるが、本当に残念だと思う。出産・子育てをすることが残念なのではない。産休を安心してとることができ、育児をしながらも勤務できる環境が整備されていないことが残念なのだ。保育所を整備することも大切であることは言うまでもない。
 
 その前に、わが国には医師が決定的に不足していることを厚労省も国民も認識する必要がある。厚労省は医師不足ではなく、偏在であるといい続けてきたが、医師不足であることは、OECD諸国のの医師数を見ると一目瞭然だ。日本は最低水準である。国は医師の養成に最大限の力を注ぐべきである。女性医師が妊娠中などに当直を免除されるためにも医師数にゆとりがあればこそだ。
 
 さらに重要なことは、冒頭に紹介したCMのように「女性は食事を作るべきだ」「育児に専念すべき」というようなジェンダー役割を押し付けないことだ。女性医師の問題を解決するためには、私たち一人ひとりの意識革命が必要なのだ。


 
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