医療ジャーナリスト和田努の「医療・健康・福祉」を考えるコンシューマーヘルス
 
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エッセイ月刊「新医療」掲載分>腹囲85センチは異常なのだろうか?

腹囲85センチは異常なのだろうか?

 
 

「メタボリックシンドローム」は2006年度の流行語大賞にに輝いたそうである。

メタボ≠フ診断基準は、腹囲が男性85センチ以上、女性90センチ以上に加えて、高血糖・高血圧・高血圧症のうち2つ以上を合併した状態を指すという。

 来年4月から「特定健診」と称して40歳以上74歳までの人たちが義務づけられることになる。メタボおよびメタボ予備軍を洗い出し、予防に力を入れることによって、国民医療費を2兆円抑制できると皮算用する。本当にうまく行くのだろうか。

 東海大学医学部の大櫛陽一教授の新著『メタボの砦〜「病人」にされる健康な人々〜』(角川SSC新書)によると、日本総合健診学会が所属する全国45施設から集めた約70万人の健診結果から40〜74歳の人で、特定健診に含まれるすべての項目を受診した5万1432人によるシュミレーションの結果は、驚くべき数字がでたそうだ。男性の94%女性の83%がいずれかの項目で異常となることが判明したのである。さらに病院通いを促される受診勧奨者は、男性の59%、女性の49%になる。受診勧奨者数は3060万人に達するという。
「40〜74歳の日本人の半数が医療機関を受診しなければならないほど、この国の健康状態は悪いのか?」と、大櫛教授はいささかあきれ気味である。

 あるシンクタンクの試算によると、このメタボ特定健診による受診勧奨者の医療費は、すでに受信中の患者を除いたとしても5兆円以上に膨れ上がるという。 医療費抑制政策を極限まで推し進めている厚生労働省が、特定健診・特定保健指導を来年度から打ち出した真意が理解できない。特定健診は、保険者に課せられるわけだが、財政の苦しい国保などは財政のさらなる悪化をもたらすに違いない。

 わが国の老年学の泰斗、桜美林大学大学院の柴田博教授も、メタボ健診≠ノ強い疑義を呈している。「日本肥満学会が理想としている、BMI22という数値は、生涯のBMIの最も高くなる中年期や初老期の余命に観点から見ると、何の根拠もないことがわかる」(柴田博著『中高年健康常識を疑う』(講談社刊) 皮肉なことに、男性腹囲85センチ以上を要注意というわけであるが、実は85センチくらい(BMI・23〜25)が最も死亡率が低いのである。私自身、BMIは25である。医師は、「標準体重より何キロ高い。痩せるべきだ」と脅迫(?)するのだが、最も死亡率の低い肥満度層に位置しているのだ。それにしても先に紹介した男性の94%、女性の83%が、「異常」と出る正常値=iあるいは標準値)は、正常なのだろうか。

 標準値、正常値という数字の示すものは、「医学的健康」とでも言うべきものなのかもしれないが、生活している者の実感とはほど遠い。正常値、標準値が絶対的な価値を持つとしたら、標準値、正常値から逸脱したものは、正常ではない「病人」とラベリングされることになるのだろうか。腹囲85センチ以上を病理現象と見る思想は、どうみても健全とは言いがたい。

 私は、テレビディレクターだった頃、『もやしとビーナス』というけったいなタイトルのドキュメンタリー番組をつくったことがある。体操の選手の体型が、次第に成熟した大人の体型からモヤシのような体型になっていく。痩身がもてはやされ、女性たちが痩せ願望になっていく風潮を、皮肉った内容だった。東京オリンピックの女子体操選手ベラ・チャスラスカも、美しく豊満だった。美の女神ヴィーナスは、もっと豊満だった……。 痩せ信奉が支配する昨今であるが、もっと痩せることの弊害も語るべきではないか。多くの高齢者の命を奪う肺炎、あるいは自殺、うつ病や認知症も低栄養からくる痩せていることと、深くかかわるという。
 
 国が、すべての人にBMI・22の理想的体型なるものを押し付けるとするならば、これはいらぬパターナリズムといわなくてはならない。


 
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