医療ジャーナリスト和田努の「医療・健康・福祉」を考えるコンシューマーヘルス
 
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【partZ】メディアは医学情報を正しく伝えているか
 

『日本の洗濯 考えるエッセンス』(西村書店刊)は、日本学術会議会長の黒川清氏ら4人の座談を収めた本であるが、司会役の朝日新聞編集委員の田辺功氏が興味深いエピソードを話している。
 
子どもの病気に「特発性側弯症」がある。成長期に背骨が曲がる病気である。「特発性」というのは、「原因不明の」という医学用語。田辺氏は、この病気を何度か記事にしたことがあった。そんなに大きな記事にはならなかった。ところが、社会部の記者が、そういう病気があることを医師に聞いて、記事を書いた。その記者は、そんな病気のあることは知らなかった。病名も聞いたこともない。しかも「特発性」と書くべきところを間違って「突発性」と書いてしまった。その記事が社会面のトップに大きく掲載された。大スクープという扱いだった。
 
見出しは「ある日突然、子どもの背骨が曲がる、恐怖の病気!」。かなりセンセーショナルだ。田辺氏のような医学記者の眼から見たら、明らかに間違った記事だ。朝日新聞の社会面トップ。これはインパクトがある。側弯症という病気に関心が高まり、当時の厚生省は研究費を出した。田辺氏は苦笑まじりじりにこう語っている。「正しい記事よりも間違った記事のほうがインパクトがある。正しい記事で世の中を動かせない無力感のようなものがある・・・」と。
 
このような類いの話は、珍しいことではない。医学や医療について専門的知識を持った記者はそんなに多くない。医療事故が起これば、社会部記者が取材を担当する。有名人が病気をすれば、平素医学・医療にかかわりのない記者が取材に出る。病院側は、医療事故の起こった背景、病名などを記者会見で説明するが、医学的知識のまったくない記者が、事実を誤認しないという保証はない。
 
旧聞に属するが、航空事故を起こしたパイロットは明らかに精神病だったわけだが、メディアには、「心身症」としばらく報道されつづけられたことがある。 「テレビはつねに最低レベルの公約数を求めている」といったのは全米テレビ芸術科学アカデミーのシェリーパーマー氏であるが、テレビディレクターたちは視聴者が面白がりそうなことばかり追いかける、というのだ。日本のテレビも例外ではない。
 
ワイドショーなど見れば、瞭然としている。科学的根拠のない情報のオンパレードである。「がんの予防には、酒やタバコがよくない」というような正しい情報は当たり前すぎて、まず取り上げることはない。科学的に確立されていないものや食べ物取り上げて、「がんの予防効果がある」と、医師や栄養士が出演してもっともらしく語るのである。その食べ物が、もの珍しいほど、センセーショナルになるというわけだ。
 
私は、このような科学的な根拠のない情報、明らかに間違った情報は、チェック、排除しなくてはならないと考える。 アメリカでは、医学者、医師、医学雑誌編集者、新聞、テレビ関係者が一堂に会して、医学とメディアのあり方について討議する会議が開かれていると聞く。メディカルジャーナリストの中には、医学校を卒業した人も少なくない。専門的な医学ジャーナリストを養成するプロジェクトもある。
 
最近は新聞、雑誌、テレビだけでなくインターネットを通した情報も飛躍的に増えている。アメリカではインタネットを活用する成人の80%が、医療情報を検索しているという。日本の正確な数字を知らないが、ここ数年で飛躍的に利用者は増えていることは実感でわかる。
 
医療機関もホームページを開設しているところが増えている。訪れる患者に親切で有益な情報を提供している医療機関も少なくない。しかしながら、中には怪しげなホームページもあるようだ。
 
医療や健康に関する情報は、生命や健康にかかわる。医療情報をチェックする方法と機関、医学・医療の解るプロフェッショナルなジャーナリスト、ディレクターを養成するプロジェクトを創りあげることを真剣に考えなくてはならない。  


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